大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和38年(ネ)589号 判決

一、債務者(本件においては被控訴人末岡坂一)が自己の財産を保全するため、他人(本件においては被控訴人田中静男)と通謀の上売買に仮装して自己所有の不動産を他人の所有名義に登記しても、それが「家賃分散ノ際ニ於ケル如タ犯罪ヲ構成スル場合ヲ除クノ外」民法第七百八条にいわゆる不法の原因に基づく給付と言い得ないことは、大審院以来判例とするところであつて、(昭和二十七年三月十八日最高裁判所第三小法廷判決、最高裁判所民事判例集第六巻第三号三二五頁参照)給付が前記法条にいう不法の原因によるものであるかどうかは、その行為の実質が当時の国民感情に照らし反道徳的な醜悪な行為としてひんしゆくすべきほどの反社会性を有するかどうかによつて決定するのが相当であるところ、(昭和三十五年九月十六日最高裁判所第二小法廷判決、最高裁判所民事判例集第十四巻第十一号二二〇九頁参照)本件仮装譲渡行為に基づいてなされた所有権移転登記行為がその当事者間にその所有権移転の効果意思を欠く点において形式的には刑法第百五十七条にいう公正証書原本不実記載罪に該当するといえるとしても、その行為の実質は未だ前述のように反道徳的な醜悪な行為としてひんしゆくすべき程度の反社会性を有するものであるとはいい難いから、本件仮装譲渡行為は前記法条の不法原因給付に該当しないものというべきである。もとより被控訴人末岡坂一が個人保証をするなどして相当の債務を負担していたというだけで、本件仮装譲渡が直ちに同被控訴人においてその債権者に対して詐術を用いて義務を免かれ、または取引の相手方を陥れる行為をしたということはできない。

二、借地法第十三条第一項によれば、土地所有者または賃貸人は弁済期の来た最後の二年分の地代または借賃につき借地権者がその土地の上に所有する建物の上に先取特権を有することが明らかである。従つて土地所有者または賃貸人としては賃貸土地の上にある建物が賃借人の所有であるか否かについては深い関心を有し、実際右建物の所有権の移動について利害関係を有するものと考えられるけれども、土地所有者または賃貸人は建物自体についての取引関係に立つ者ではないから、右建物の仮装譲渡につき民法第九十四条第二項にいわゆる第三者にあたらないものというべきである。この点に関する控訴人の所論は独自の見解であつて採用し難い。

(奥野 野本 真船)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!